メメント森の熊

新卒で県庁に入り、2年半公務員として働いた後、スタートアップ企業に転職してフルリモート勤務をしています。アクセサリーを作って販売もしています。ここは私のスケッチブック。

由水常雄『ガラスと文化 その東西交流』読んだ【幻の「パートドヴェール技法」は日本人が復活させた?】

私は趣味でビーズアクセサリーを作っていて、透き通ってキラキラしているものがすきです。なので、ガラスの器やアートをみるのもすきです。箱根のルネ・ラリック美術館やガラスの森美術館を訪れたときは垂涎ものでした。

最近読んだ、ガラスのとっても面白い本があったので紹介します。由水常雄(よしみず つねお)さんの『ガラスと文化 その東西交流』という本です。

「ものが持っている情報で、記録されている情報の解釈の歪みを直していこうというのが、ひとつの狙い」

どういう内容の本なのかというと、東西の文化交流の様子を、史実ベースではなく、出土したガラス器の材質・製法・意匠ベースで見ていこうという本です。
そうすると、

三国時代新羅(シルラ/しんら)がローマ文化を継承する国家であった

★中国の戦国時代が、戦乱の時代というよりも東西文化の交流による社会変革と殖産興業の活気に満ち溢れた工業生産と流通経済の大発展の時代であった

 などなど、今までの歴史概念を覆すような歴史のすがたが見えてくる、といった内容です。
ガラスでできた器やとんぼ玉、王侯貴族の持ち物の成分を調べて、この時代/この場所の作品ならこの成分が多いはずなのにそうなっていない、つまりこれは西方からの輸入品だ!とか推定していくんです。めちゃめちゃ面白いですよ。世界史好きにはたまらないと思います。

古代メソポタミア幻の技術「パートドヴェール技法」は由水氏が現代に復活させた?

本の中でもう一つ気になったのが、由水常雄氏が「パートドヴェール技法」を復活させた、という記述です。パートドヴェール技法とは、簡単にいえばまず型を作り、その中にガラスの粉末を入れて焼成し、冷やして固めることで作品の形をつくる技法です(以下動画参照)。


Pâte de Verre

私はこれらの技法を合理化して、誰にでも作れ、しかも吹きガラス技法では作ることができない高度な表現や、大型作品も可能な、幅の広い技法として復活させることにしました。

これをパート・ド・ヴェール技法として今から二十年余り前に公開しましたが、この技法により、今ではわが国を中心にして、諸外国でも大勢のアマチュア層からプロ作家に至るまでの人びとが、自由にガラスづくりを楽しむことができるようになり、現代ガラスの中に新しいジャンルを築き始めています。(53ページ)

 普通にめっちゃすごくない?

パートドヴェール技法で作られた作品は、お砂糖のような、ちょっと濁ってぼやけた、なんとも言えないかわいい感じのテクスチャ(動画でもsugar-like textureと表現されています)になります。これを復活させたのが日本人だなんて、ガラス好きとしてはなんとなくうれしい。ほら、こんなに素敵なんだよォ…↓

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しかし、Wikipediaで検索するとまた違った情報が。
パートドヴェール技法を初めて日本で再現したのは岩城硝子製作所で、1933年ごろに特別チームを編成して挑んだ、とのこと。
おそらく、製法としては岩城硝子製作所が再現したのが最初で、それを体系的にまとめあげたのが由水氏、ということだと思いますが、どうなんでしょう?
もしくは、メソポタミア由来の製法、というのが初めてということなのかも。
気になったので岩城硝子製作所の現在のすがたであるiwakiのTwitterに質問してみます。続報をお待ちください。

なにはともあれ、夏休みの読書にめっちゃおすすめです。モノを通して世界史を見つめる本ってどうしてこんなに面白いんでしょね。