メメント森の熊

新卒で県庁に入り、2年半公務員として働いた後、スタートアップ企業に転職してフルリモート勤務をしています。アクセサリーを作って販売もしています。ここは私のスケッチブック。

安部公房『無関係な死』の演劇版『お前にも罪がある』を観た

高校時代から安部公房が好きで、全集も読み(ゴリゴリ読み進め過ぎて大半の内容は忘れましたが)、「大学に入ったら東京だし安部公房作品の演劇とかも見てみたいなー」と思っていたのですが、そういえば去年(2017年)観る機会に恵まれたんです!ブログを始める前でした。そのことを思い出して記しておこうと思います。

所属していた演劇サークルの先輩が役者をやられているのですが、その人が出演するということで行ってきました。
劇団ffffさんの『お前にも罪がある』です。小説版だと『無関係な死』。

先輩は死体役だと聞いて、喋らへんのかい!と一瞬思いましたが、安部公房作品では死体とか幽霊が普通にしゃべることを思い出し、今まで文字で追っていたセリフが人の声だとどんな風になるんだろう?とわくわくして会場の王子スタジオに向かいました。東大前駅から南北線で意外と近かったです。

 そこは小さなスタジオでした。お客さんに演劇界隈の顔見知りもけっこういる、そんな雰囲気でした。

 さて、この『お前にも罪がある』のあらすじですが、

 平凡な会社員の男が家に帰ったら、全く心当たりのない死体が横たわっていた!
当然警察に通報しようとするが、今日は心待ちにしていた彼女が部屋に来る日。
あらぬ嫌疑をかけられて彼女との時間が取れなくなってしまっては困る。
そう考えた男は死体をなんとか隠そうとする。
しかし、突然死体が喋りだす。
男の行き当たりばったりな考えを批判したりおちょくったりする死体。
すべての行動が裏目に出る男はほとほと困り果てる。
とうとう彼女も部屋にやってきてしまい…。

 こんな話で、全体の面白さは男・死体・女の三角形のちぐはぐなやりとりです。安部公房好きの人なら「うわっ、安部公房っぽいー!」と思うはずです。
今まで目立たず平凡にやってきた主人公が、理不尽な騒動に巻き込まれていく…公房あるあるですね。笑

舞台は主に男の暮らすアパートの一室だけで展開していきます。
今まで文字で追っていた言葉たちが肉声で、動作もついているのを観て私はすごく感動しました。

以下のセリフは、実際のものでなく完全にニュアンスですが

死体「(部屋に飛び散った血痕を見て)血の跡。あやしいねえ、彼女が来たらなんて思うだろう?」
男「くそっ…漂白剤をつけて拭くぞ…よし!」
死体「それでうまくやったつもりかい?周りの床や壁をみてごらんよ、そんなところが一か所だけ漂白剤で白くなってちゃあすごく目立つぜ」
男「ああどうしよう…部屋全体に漂白剤であとをつけるしかない…!」

うわぁ本で読んだやつやー。
やっぱり実際の肉声で、役者さんの解釈も入った後だと立体感が違うんですね。しみじみしました。
また、主人公である男の役者さんのビジュアルも、どこにでも居そうだけど胡散臭い感じが安部公房作品の世界観とマッチしていてめっちゃよかったです。

 ただ、ひとつ違和感があったというか私的に物足りなかったのは、男の恋人である女の役者さんの演技です。
そもそも、安部公房に出てくる女のキャラクターたちに私はすごく関心を持っています。あくまでも男目線の女であって人格や感情を感じないというか、全員マリリンモンローみたいなんですよね(安部公房はインタビューや小説以外の場でよくマリリンモンローに言及しているのでそれも意識してこう書きました)。

思い返してみると、彼の作品中に40歳以上だろうな、と思われる女性ってほとんど登場しなくて、だいたい20代30代と思われる若い女ばかり出てきて、みんな似ています。
ビジュアルはどこかしら魅力的で、「~なのよ」「~だわ」といった言葉遣いで、肉体派。作品の中では難しいことを考えず、その場その場の気分による発言で主人公を困らせるって感じの役回りを受け持っています。発言だけが書かれるため、頭の中で何を考えているのか分かる女キャラクターってたぶん安部公房の作品の中ではいないと思います。
この劇での女もまさにそんな感じで、男の心配もどこ吹く風で、絶妙に死体に気づかず、最後にはベッドに寝そべって男が戻ってくるのを楽しみに待つ…それで劇は終わります。

今回の劇で女を演じられてた役者さんは、個人的にはもっとアイコニックにやってほしかったところを、彼女の感情的なものをのぞかせる感じにしていて、あれれ~それは違うくない~?と思ったり。やけに生々しいというか。それもわざとなのかなあ?
まあ演技の難しいところや匙加減は正直わからないので、演技オタクみたいな友人を連れてくるべきでしたね…。

そんなことを思いながらも、全体的にはとっても楽しめました!じわっと面白い、ヘンな劇でした。
また安部公房作品みてみたいな。『友達』とか『幽霊はここにいる』とか。

 私の安部公房初心者むけおすすめはこちらです👻

yamaffy.hatenablog.com

 『無関係な死』の小説版はこちら 

無関係な死・時の崖 (新潮文庫)

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